第2回 展覧会企画はこうして生まれる(1)
白鳥正夫

「写生派の祖」とされる円山応挙の特別展を見ました。応挙(1733−1795)は江戸時代半ばに中国画や西洋画の技法を取り入れ、独自の写生画を確立させました。水墨画を大成した雪舟と並び、日本の絵画史上に画期的な影響をもたらせた大画伯です。

自然美を追求した作品には時代を超えた普遍性があります。孔雀や鶴を描いた名品は写生の極致です。応挙自身が実際に見たこともない虎や架空の龍の大作には迫力を感じました。さらに「応挙寺」として名高い兵庫県香住町の大乗寺の障壁画を三部屋に再現展示しており、見ごたえがありました。

応挙展は12月14日まで福島県立美術館、さらに年が明けて2月3日から3月21日まで江戸東京博物館に巡回します。機会があればぜひ鑑賞してほしいと思います。私が訪ねた最終日の大阪市立美術館は長蛇の列でした。こうした話題性のある展覧会は会期が迫ると込み合います。中ほどのウイークデーに朝一番で見るのがベストです。


円山応挙展の最終日長蛇の列が続いた
(2003年10月26日、大阪市立美術館で)

応挙を見た数日前には奈良県立美術館で棟方志功展を見ました。こちらは閉幕まで日数があり、じっくり鑑賞しました。「わだばゴッホになる」の有名な言葉を残した志功(1903−1975)は、72年の生涯をエネルギッシュに創作活動を続けました。新境地を拓いた板画だけでなく、倭絵(やまとえ)、油絵、書、陶画など幅広い棟方芸術が堪能できました。

各地で様々な展覧会が開催中です。その大半が芸術家名を冠した企画展です。ピカソはじめゴッホ、ルノアールらに加え、日本の平山郁夫や東山魁夷、小倉遊亀、上村松園らの大家や、いわさきちひろ、原田泰治、安野光雅らの人気作家の展覧会は、テーマを変え随時開催されているので、足を運んだ経験もおありでしょう。

棟方志功展は生誕100年を記念しての企画でした。私たち、展覧会企画を担当する者にとって、生誕や没後、画業○○年といった取り上げ方は定番です。こうした機会に現役、あるいは故人となった芸術家の業績を紹介するのは、意義のあることです。展覧会の生まれる経過は多様ですが、ここでは私が中心になって仕立てた「アプリケ芸術50年 宮脇綾子遺作展」を例に、そのいきさつを紹介してみます。

宮脇さんは1995に永眠しました。享年90。私は生前お目にかかったことはありませんが、宮脇さんの作品は、食の月刊誌として定評のあった『あまから手帖』の表紙絵を通し目にしていました。ほのぼのとした味わいで、表紙を見ているだけでも心がなごみました。

宮脇さんは半世紀にわたって、生活の中の身近な草花や野菜、魚などを題材にアプリケの創作をしました。一人の主婦のたゆみない努力によって芸術作品を生み出す典型を多くの人に伝えたいと思いました。亡くなった年の秋、名古屋に住む遺族を訪ね、「ぜひ遺作展を」とお願いしました。遺族には「何よりの供養になる」と快く了解していただきました。

展覧会を開くためには、会場の見込みを立てなければなりませんが、打診したデパートはどこも好意的でした。主婦をターゲットにするデパートのニーズに合ったのでしょう。しかし何より宮脇さんの作品には独創性がありました。そうした作品を扱う私たち企画マンにとっても、作品の内容にとどまらず、見せ方などの手法に独創性が必要です。


デパートで大人気を博した宮脇綾子遺作展
(1997年、小倉そごうで)

宮脇家では、古くなった家を建て替える準備をしていました。何度か足を運び私が座る居間が、宮脇さんのアトリエだったのでした。アプリケには、それほど広いスペースや設備が要りません。布とハサミや針、ノリがあればいいのです。遺作展として、一人の庶民芸術家の生まれてきた背景も見せられないかと考えました。

このため本棚や押し入れに大切にしまってあった資料類をすべて借りることにしました。これは年譜の作成や監修の学芸員のデータとしても活用されました。また代表作を集めるだけではなく、宮脇さんの作品が生まれたアトリエも記録に残しておきたいと、朝日放送に趣旨を説明し、ビデオの制作を要請しまた。

ビデオは1年以上かけ、宮脇さんの生い立ちや触れ合った人々の思い出などを縦糸に、四季豊かな作品の数々を横糸にし、作品の生まれてくる過程を収録しました。当初、会場で流すためだけでしたが、力作のため番組として放映されました。さらに会場ではアトリエを再現し、タンスや作業机など調度品も展示しました。

展覧会は、1997年春から一年余の間に札幌から熊本まで全国15会場を巡回しました。合わせて20万人以上が、一人の主婦が創り続けた美の世界に見入りました。地元の名古屋では主婦らが行列で入場を待つほどでした。だれもが取り組むことができて、だれもまねのできない作品に、多くの感動を寄せられました。

私はそんな光景に接し、展覧会を通じ、人々の心にメッセージを伝えられた充実感に浸ることができました。この宮脇綾子さんの展覧会が来年,作品の大部分が寄贈された豊田市立美術館などで開かれる予定です。宮脇さんのアプリケは、時代を経ても多くの人の共感を呼ぶことでしょう。

次回は「能登に生きる漆職人、角偉三郎さん」です。

◇メモ◇拙著『夢をつむぐ人々』の表紙の「しゃけ」、背表紙の「あんこう」裏表紙の「れんこん」は、いずれも宮脇綾子さんの作品です。また本文にも「主婦が拓くアプリケ芸術」を詳しく紹介しています。なお新刊『「文化」は生きる「力」だ』には新聞人体験した、展覧会など企画の裏側を書き込んでいます。

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しらとり・まさお
朝日新聞社大阪企画事業部企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から、現在に至る。編著書に『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)、『鳥取砂丘』『鳥取建築ノート』(いずれも富士出版)などがある。

 
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたち平山郁夫画伯らの文化財保護活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢しごと 三蔵法師を伝えて
発売日:2000年12月21日
定価:本体1,800円+税
発行:東方出版
内容:玄奘三蔵の心を21世紀へ伝えたいという一心で企画した展覧会。構想から閉幕に至るまで、筆者の「夢しごと」をつづったルポルタージュ。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。

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