第21回 「万国博の美術」展
白鳥正夫

21世紀最初になる愛知万国博覧会の開催を記念し、特別展「世紀の祭典 万国博覧会の美術〜パリ・ウィーン・シカゴ万博に見る東西の名品〜」(「万国博の美術」展)が東京での展示を終え、大阪市立美術館では10月5日から11月28日、名古屋市博物館でも来年1月5日から3月6日まで開催されます。私は先月、東京国立博物館で鑑賞しましたが、「これぞ展覧会」との印象を受けました。久々に見ごたえのある展覧会でしたので、紹介しておきます。

展覧会企画は多種多様です。特定作家の作品を集めた個展から、複数作家のグループ展もあれば、特定美術館の名品展、特定所蔵家のコレクション展、さらには文化財や出土品などで構成する文物展など様々です。どんな展覧会にも舞台裏の苦労が伴いますが、展覧会企画を作る側がもっとも力を入れるのがテーマ展です。「万国博の美術」展も、いわゆるテーマ展です。

私がこれまで担当した代表的なテーマ展としては、戦後50年記念の「戦後文化の軌跡 1945−1995」展と、朝日新聞創刊120周年記念の「シルクロード 三蔵法師の道」展がありました。まずコンセプト、そして作品の選定や借用交渉など多岐にわたる準備に時間がかかり、舞台裏では相当の苦労があります。

「万国博の美術」展は当初、愛知万博を控えた名古屋市博と、大阪万博の開かれた大阪市美で開催に向け協議が始まったと聞いています。こうした流れに東京国立博物館が参画して、今回のようなスケールの大きい内容の豊富な展示構成になったのではと思われます。

万国博覧会は人類の英知を結集し文明の到達点を示そうとの趣旨で、1851年にロンドンで初めて開催されました。それ以降、世界各地で開かれるようになり、19世紀後半は「万国博覧会の時代」といわれています。

日本は江戸時代の1867年、パリ万博に幕府と薩摩藩、佐賀藩が初めて参加します。1873年のウィーン万博から、国としての参加になります。西洋は優れた工芸に驚きの目で日本を迎え、日本も万博を通じ、西洋から吸収し始めます。こうした万博の会場で、最も強く日本を印象づけたものは、精巧な技に支えられた工芸品でした。

今回の展覧会は、日本が初めて参加したパリ万博を皮切りに、19世紀後半に開かれたウィーン、シカゴなどの万博に出品され西洋各国に驚きをもって迎えられた日本の工芸品と、万博を彩った西洋絵画や工芸品など、400点を超す作品が出品されています。

万博というと、科学と産業だけの祭典と思われがちですが、工芸品や美術品による「美の祭典」でもありました。この展覧会での展示構成は、三章に分かれ、第一章が「西洋と東洋の出会い」で、明治前期の万博に焦点をあて、そこに出品された日本の工芸を「輸出工芸」と「古美術」という二つの面から紹介しています。

また第二章は「ARTとしての日本工芸」として、19世紀末に工芸に与えられた新たな役割に注目し、第三章では「万国博覧会と西洋美術」のテーマで、それぞれエネルギーにあふれた19世紀の万博をクローズアップしています。

まず第一章は、万博が東西の文化が出会う場所として位置付けられています。日本の精密な技巧によって作り出された工芸が注目されます。一方、日本は西洋の技術や、新しいスタイルを学び、吸収していきます。ここでは西洋を視野に入れた独特の造形としての明治期の輸出工芸と、古美術としての工芸が取り上げられています。

七宝諫鼓鶏形大太鼓〔しっぽうかんこどりがたおおだいこ〕(作者不詳 1873 総高158.0cm)は、メトロポリタン美術館のクロスビー・ブラウンコレクションですが、1873年のウィーン万博に出品されています。明治の早い時期に限って行われた泥七宝の手法で制作された作品です。ウィーン万博に出品され、購入されたものと伝えられています。

次いで第二章では、多様化した日本の工芸を見てとれます。明治後半には万博出品のため、一流の職人が腕を競い最高級の作品を作り上げていきました。工芸を美術にと、シカゴ万博に出品された工芸は「絵画」に迫ることで、美術のカテゴリーに展示されたのです。


「七宝諌鼓鶏形大太鼓」

七宝桜花群鶏旭日図大香炉〔しっぽうおうかぐんけいきょくじつずだいこうろ〕(林喜兵衛ほか 1893 高さ216.0cm)は、個人蔵で1893年シカゴ・コロンブス世界博に出品されました。同じデザインからなる一対の七宝花瓶を伴う三具足で、最上部に鷲を戴き、星条旗のデザインを取り入れるなど、アメリカで行われた万国博覧会にふさわしい意匠が施されています。


「七宝桜花群鶏旭日図大香炉」

執金剛神像〔しゅこんごうしんぞう〕(岡崎雪声 1893 高さ255.0cm、台座含む高さ20.5cm)は、早稲田大学會津八一記念博物館蔵で、やはりシカゴ・コロンブス世界博に出品されました。その後、長く大隈重信の所蔵となっていたもので、第二次世界大戦の空襲による大隈邸火災の時に倒壊しました。近年修復されていますが、戦争がもたらしたものを後世に伝えるため、表面は焼損時のままにとどめられています。


「執金剛神」

最後の第三章では、1855年から1900年にかけて5度開かれたパリ万博を中心に、万博が西洋美術の中に占めた位置に迫ります。1855年にはアングル、ドラクロワといった巨匠たちの回顧展が開かれます。1900年ではティファニーやガレ、クリストフルといったブランドを確立した作家に加え、会場外で個展を行ったロダンを合わせ、「万博と美術」を俯瞰します。

ヴィーナスの誕生(アレクサンドル・カバネル 1863 130cm×225cm)は、オルセー美術館蔵で、1867年のパリ万博出品されました。1863年のサロンで最も人気を博し、ナポレオン三世によって買い上げられた作品です。当時の貴族的趣味を代表しています。この作品は名古屋市博には出品されないそうです。


「ヴィーナスの誕生」

万博会場の中央ドーム(ルイ・ベルー 1890 198cm×164.5cm)は、カルナヴァレ美術館蔵。1889年のパリ万博の特徴はガラスと鉄による建築物です。半年で3225万人の観客を受け入れたのが高さ60メートルの中央ドームです。


「 万国博覧会中央ドーム」

主催者のプレスリリースなどを参考に主要作品を紹介(写真はいずれも主催者提供)しましたが、東博での鑑賞には休憩をはさみ3時間かかりました。展示品の重厚さに感嘆しましたが、国力をかけた出展が想像できました。

日本ではアテネオリンピックでのメダルラッシュに沸きましたが、いよいよ来春開幕の愛知万博のカウントダウンが始まっています。日本では大阪万博、沖縄海洋博、筑波科学技術博、大阪花博に続いて5度目の開催となります。

万博では、イベントや映像に目を奪われがちですが、「美の祭典」としての視点も持ちたいものです。そのプレイベントとして巡回する今回の「万国博の美術」展で、鑑賞するるあなたの目を養って下さい。

次回は「沙漠の美術館 敦煌」です。


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しらとり・まさお
朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)、『鳥取砂丘』『鳥取建築ノート』(いずれも富士出版)などがある。

「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたち平山郁夫画伯らの文化財保護活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢しごと 三蔵法師を伝えて
発売日:2000年12月21日
定価:本体1,800円+税
発行:東方出版
内容:玄奘三蔵の心を21世紀へ伝えたいという一心で企画した展覧会。構想から閉幕に至るまで、筆者の「夢しごと」をつづったルポルタージュ。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。

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