第23回 「美術の秋」鑑賞を考える
白鳥正夫

猛暑に地震や台風が次々と襲来。とんでもない今夏にうんざりです。でも10月入りで、いよいよ季節は秋です。「美術の秋」でもあります。優れた芸術に触れ、精神のリフレッシュをしたいところです。待望の金沢21世紀美術館が今月9日にオープン。開館記念展は「21世紀の出会い−共鳴、ここ・から」です。また石川県立美術館では根強い人気洋画家の「香月泰男展 <私の>シベリア、そして<私の>地球」も開催中です。ともに見ごたえの展覧会ですから、じっくり時間をかけて鑑賞したいものです。


待望の金沢21世紀美術館

金沢21世紀美術館に期待

金沢といえば、10数年前に在勤しておりました。伝統の息づく街に、斬新な名称を持つ美術館の新設には、隔世の感は否めません。しかし「新しい文化の創造」と「新たな賑わいの創出」を掲げており、地域にしっかり根付いてもらいたいと思います。金沢21世紀美術館の詳細は http://www.art.city.kanazawa.ishikawa.jp/ にアクセスして下さい。

さて開館記念展のコンセプトを美術館の資料から紹介しておきましょう。

ひとつの美術表現は、それらが作られた時代の雰囲気や背景、さらには社会の抱える問題や喜びなどを目に見える形にして、私たちの前に示してくれます。
時代の感性を呼吸するアーティストたちの作品との出会いは、鑑賞者のこころとからだに新鮮な刺激を与えます。隠された感性が声をだしてうたいはじめるのです。声と声が出会い、「ここ」から生まれた共鳴は、それぞれのこころとからだをとおして響きとしてひろがっていきます。
「21世紀の出会い−共鳴、ここ・から」では、美術表現を通して、21世紀のさまざまな価値観が立ち現れます。
(展覧会コンセプトより)

参加作家37名という力の入った企画ですので、大いに期待したいものです。北陸のみならず全国から注目されており、2005年3月21日までのロングラン企画ですから、ぜひ鑑賞してほしいと思います。どんな立派な美術館でも、いかなる優れた作品でも鑑賞者がいなくては成立しない世界です。

「香月泰男展」(24日まで)は、私の現役時代の同僚が企画しました。今年2月に東京ステーションギャラリーで見ましたが、初期から晩年までの油彩画、水彩素描、陶画、おもちゃ、テラコッタに至る約180点で構成されています。


香月泰男「朝陽」(1965年、図録から)

香月泰男(1911−1974年)は画壇で頭角をあらわしたころの1943年に中国東北地方に召集されました。45年8月の敗戦により、シベリアの捕虜収容所に送られ、47年5月に帰国するまで強制労働をさせられ、飢餓と酷寒の生活に苦しみました。その体験を踏まえた作品が、代表作の<シベリア・シリーズ>なのです。

今年は香月が63歳で急逝してちょうど30年になります。この間、今回の展覧会を含め回顧展が7回も開かれています。生前に有名な画家が、亡くなると評価が一転するケースもありますが、香月はその逆です。それは作品に力があり、画家に人間的な魅力があるからに他なりません。

香月の作品は、山口県立美術館や京都国立近代美術館で断片的に見ていますが、これだけの作品をまとめて見るのは初めてでした。さすがに<シベリア・シリーズ>に迫力がありましたが、初期の風景画もいいと思いました。元同僚は「すでに定評のある作家ですが、香月芸術を日本美術史の中で意義を探る試みです」と語っています。


香月泰男「風景」(1931年頃、図録から)

モリスの作品と運動を紹介

一方、9月に見た展覧会の中から興味をひいた二つの展覧会を紹介します。まず大阪・梅田の大丸ミュージアムで開催中の「ウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ展」(3日まで)です。展覧会はひき続き7〜19日まで東京の大丸ミュージアムでも開かれます。


「ウイリアム・モリス」展会場から

モリス(1834−1896年)は卓越した発想で「近代デザインの創始者」と呼ばれました。機械による大量生産を鋭く批判し、アーツ・アンド・クラフツ運動を導きました。今回の展覧会では壁紙や織物、家具など多様な約140点を展示しています。

こうした運動は、北はスコットランドのマッキントッシュから北欧デザインへと、東はウィーンでホフマンとウィーン工房、ドイツでバウハウスへ、そしてアメリカでスティックリーやフランク・ロイド・ライトへと、日本ではもバーナード・リーチを含め柳宗悦へと受け継がれます。

これまでモリスの作品のみに焦点があたり、その体系的流れは一般的に理解されておりませんでした。モリスの仕事と運動の広がりを総合的に紹介した日本で初めての展覧会といえます。

また日米欧でアーツ・アンド・クラフツの研究が進められており、シカゴ、ロンドン、日本で毎年シンポジウムが開催されています。来年は日本で開催される予定です。

もう一つの展覧会は、福岡市立博物館で開催中の「アフリカのストリートアート展」(17日まで)です。こちらは美術展というより、現在のアフリカの街並みで見られる衣服や看板、ポスター、生活雑貨などを展示している他、コーヒーショップや床屋なども再現しています。


「アフリカのストリートアート」展会場から

変わった展示品としてはライオンやビール瓶など奇抜な形をした装飾棺桶もあります。これは西アフリカのガーナで実際の葬儀に使われているそうです。まさに私たちの常識を超えた異文化で、その大胆さと奇抜さには驚きます。

またこの展覧会では携帯電話による展示解説の実験が行われていました。NTTドコモの504i 以降の赤外線が付いている機種で利用できるシステムです。カメラ機能でバーコードの読み取りをすると簡単に接続できます。ただダウンロード時に30円の通信費が必要となります。

現在、展覧会では音声ガイドによる解説が通常ですが、近い未来型の試みといえます。この日は実験ですから対応機種を持たない観客には無料の貸し出しをしていました。

送り手の工夫に呼応しよう

さて、このように展覧会の送り手は、新しいハードを整え、画家の作品を集大成したり、新たな切り口による展示、さらには新手法の展示解説と、様々に工夫を凝らせています。ここで大切なことは受け手側の対応です。美術鑑賞は相互の理解で成り立つのです。

かつて西洋では、美術は王侯貴族が占有しました。やがてブルジョワが愛好するようになり、次第に大衆へと広がりました。東洋では、美術はいわば文化人が理解すればいいといった送り手側の一方通行になりがちでした。

これまで受け手側の大衆は、美術を自分のためと思ったり、扱う習慣を持たずに付き合う態度をとりがちでした。しかし、これからは受け手側の積極的な意思と行動が必要です。そのためには、鑑賞への心構えを持ちたいものです。

「美術の秋」は、送り手側の試みに呼応して、できるだけ鑑賞前に情報を入手し、鑑賞にはじっくり時間をかけましょう。それが美術を主体的に受け止めることになるのです。美術は私たちの感性を磨いたり、心を豊かにしてくれるのです。

次回は「続・美術の鑑賞を考える」です。


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しらとり・まさお
朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)、『鳥取砂丘』『鳥取建築ノート』(いずれも富士出版)などがある。

「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたち平山郁夫画伯らの文化財保護活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢しごと 三蔵法師を伝えて
発売日:2000年12月21日
定価:本体1,800円+税
発行:東方出版
内容:玄奘三蔵の心を21世紀へ伝えたいという一心で企画した展覧会。構想から閉幕に至るまで、筆者の「夢しごと」をつづったルポルタージュ。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。

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