2005年、文化関係でビッグニュースだった九州国立博物館(九博)を12月初めて訪れました。主な目的はシルクロード・奈良国際シンポジウムを聴講することにありましたが、広大な博物館を運営するボランティア活動にも注目しました。シルクロード・シンポの内容と合わせ、地域に根ざした新たな博物館活動を紹介します。
シルクロードを拓いた「戦争の道」
![]() 奈良新公会堂で開かれたシルクロード国際シンポの専門セミナー |
まずシルクロード・シンポは、奈良でシルクロード博覧会が開催されたのを記念して1991年から隔年で、なら・シルクロード博記念国際交流財団(シルク財団)と朝日新聞社および日本ユネスコ協会連盟の三者が連携して開いています。奈良県は奈良をシルクロードの終着地として位置付け、シルクロードとのかかわりを追究しており、日本とアジアの文化交流をテーマに掲げた九博での開催は意義のあるものでした。
そもそもこの国際シンポには、筆者が1993年から99年まで主催者の一員として裏方を務めてきた思い出があります。とりわけ97年と99年には、小生らの提案で三蔵法師をキーマンに仏教伝来のテーマに踏み込んだのでした。シルクロードは東西の文明を結び、地球的な広がりもあり、その後も私にとってはライフワークとなっています。
![]() 九州国立博物館に移しての公開セミナー |
![]() メモをとりながら熱心な聴衆 |
シンポは、奈良での専門と公開セミナーを経て、九博で開かれました。私は奈良の専門セミナーに続いての参加でしたが、専門家から幅広い示唆を与えられました。2010年にはわが国最初の国際都市ともいえる平城京遷都1300年を迎えます。さらにシルクロード学が継承されていくことを期待したいものです。
今回のテーマは「シルクロードを拓く 漢とユーラシア」でした。ヨーロッパとユーラシアを結ぶネットワークがより太い動脈になったのは前漢時代で、ことに武帝(紀元前156年―同87年)による積極的な対外政策でシルクロードが拓かれた、との開催趣旨でした。この時代、匈奴など強勢な北方騎馬民族との戦闘のための対外政策でしたが、結果的に交易や文化の交流を促したのでした。
シルクロードは、今でこそラクダが行き交いロマン掻き立てる「平和の道」のイメージがありますが、騎馬によるすさまじい「戦争の道」として拓かれ、その後もアレクサンドロス大王やチンギス・ハーンなどが勇躍するのです。21世紀に入ってもアフガニスタンで戦火にまみれ、ソ連から独立した中央アジア各国でも内乱が伝えられているのです。
日本が対外的に歴史を持つのも漢の時代で、あの有名な倭の奴国の金印が授けられ、それが九博のある大宰府に近い志賀島で見つかっているのです。いずれにしても漢の時代に西域さらにはローマ帝国につながるシルクロードを通じ、多くの交易が行われ、やがて中国東北部から朝鮮半島を通じ、日本へと先進文化がもたらされたのです。正倉院には多くの文化遺産が保存されていますが、現代に至る日本文化の基層を培ったといえます。
| ※いずれの写真も竹森健一さんの提供 | ![]() 九州国立博物館のオープンに押し寄せた約1万人の見学者の列 |
![]() オープン初日、人であふれる会場内 |
九博でのシンポには、博物館から臺信祐爾・文化財課長もパネリストの一人として発言されました。臺信課長とは東京国立博物館に居られた頃、「シルクロード 三蔵法師の道」展で、文化財を借用させていただいたご縁もありました。「シルクロードは数々の物を交易させたが、神を人間の形で表す仏教に与えた西洋文化の影響が意義深かった」と総括していました。
ボランティアが支える博物館の運営
![]() 4階展示室への長いエスカレータ |
![]() 館内で生演奏のリハーサル |
この九博シンポで受付の世話をしていたのがボランティアでした。しかもその一人には私の大学時代の同窓生もいました。彼は定年後のひと時を東京から帰省し、故郷で社会貢献をしようと応募したのです。ボランティアといってもレポート審査があり、友人も「受かったよ」と喜んで電話をしてきたほどです。
九博は当初から、国と県およびボランティアなど地域が協力するという21世紀にふさわしい市民参加型の博物館をめざしていました。こうした方針に呼応し、293人の定員に842人も応募したのです。このため20代から70代までバランスをとって採用したということです。
九博交流課によると、「楽しくなければボランティアではない」との考えから、それぞれの自主意識を生かし、開館前から接客マナーなど徹底した研修を重ねてきたといいます。さらにこれからの生涯学習社会の一環として、ボランティア研修や体験学習、公開講座などを位置づけ、地域に根ざした博物館運営を企画しているのが特徴です。
九博は今年10月16日にオープンして、約2ヵ月で69万人の入場者があったそうです。いわばテーマパークのようなにぎわいです。私が訪ねたのが日曜日だったこともあり、人であふれていました。この館内案内(英語や韓国語、中国語も)をはじめ展示解説、イベント、教育普及などの分野で活躍しているのです。
![]() 東京国立博物館所蔵の「好太王碑文の実物大拓本」 |
4階にある文化交流展示室では「海の道、アジアの路」展が開かれていました。日本で4番目となった国立博物館の基本コンセプトは「日本文化の形成をアジア史的視点から捉える」となっており、旧石器時代から近世末期までの日本とアジアの文化交流の歴史をそれぞれテーマごとに12室に分け、展示構成されています。
もちろんここでもボランティアが随所にいて、様々な質問に対応し、とりわけ子どもたちに丁寧に説明していました。展示物はノーフラッシュで撮影できるほか、触ることの出来る展示物もあります。
![]() 新潟県津南町所蔵の「火焔土器」 |
私が興味を引いたのは、今回のシルクロード・シンポの漢の時代に重なる「倭人伝の世界」や「遣唐使の時代」のコーナーでした。アジアから日本へと続く文化交流が体得できます。総延長1万数千キロに及ぶ遠大な道を様々な民族と多様な物資が盛んに行き交い、文明が交差し興亡の舞台ともなってきたシルクロードから歴史を重ね、なおこれから未来に向け、「交流の道」が脈々と続くのです。
「アートへの招待状」ご愛読のお願い
さて筆者がこのウェブのサイト・アートシティ「展」にエッセイの書き込みをはじめ3年目を迎えました。このほど約2年間のぶんか考「アートの周辺」を再編集し、大幅な補筆と加筆で一冊の本「アートへの招待状」が梧桐書院より発行されました。ぜひご愛読をお願い致します。
私事ですが、もともと新聞記者でアートの世界は門外漢でした。しかし10年余、朝日新聞社の文化企画を担当し多くの展覧会に関わり、フリーになってからもアートに関わる仕事を続けています。専門家が文献を駆使し見識を書くのと違って、あくまでも現場からの報告に徹してきました。
各回のエッセイをリアルタイムで書こうと努めましたので、未整理なものも散見します。出版にあたって、できるだけテーマごとにまとめ、私なりに伝えたい趣旨を盛り込んだつもりです。これから長い老後を迎える団塊の世代への入門書であり、若い世代にも私自身の体験を通じての鑑賞のあり方について参考になればとの思いを託しました。
ひと口にアートと言っても、多くの領域と課題があります。美術館や博物館を取り巻く環境も変革期を迎えています。新年も新たな視点で「アートの周辺」を取材し、報告をしますので、よろしくお付き合い下さい。
次回は「『トンボの眼』の試み」です。
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![]() アートへの招待状 発売日:2005年12月20日 定価:1,800円(税込) 発行:梧桐書院 |
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「大人の旅」心得帖 発売日:2004年12月1日 定価:本体1,300円+税 発行:三五館 |
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| 「文化」は生きる「力」だ! 発売日:2003年11月19日 定価:本体1400円+税 発行:三五館 |
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第一章 展覧会とその舞台裏から 第二章 美術館に行ってみよう 第三章 アーティストの心意気と支える人たち 第四章 世界の美術館と世界遺産を訪ねて 本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。 (木村重信・兵庫県立美術館長の序文より) |
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夢をつむぐ人々 発売日:2002年7月5日 定価:本体1,500円+税 発行:東方出版 |
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| 夢しごと 三蔵法師を伝えて 発売日:2000年12月21日 定価:本体1,800円+税 発行:東方出版 |
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