第90回 兵庫陶芸美術館の取り組み

山の斜面を利用して森の中建てられた館(兵庫陶芸美術館提供)

兵庫陶芸美術館は、市街地から離れた「森の中」にありました。日本六古窯の一つに数えられる丹波焼の窯が点在する、文字通り「やきものの里」に、2005年10月にオープンしたのです。古陶磁器と現代の陶芸との出会いの場として、企画展はもちろん、地域と連携した活動をしています。初めて訪れた館では、「a平焼―淡路が生んだ幻の名陶」を開催していました。今回は丹波立杭の里に生まれた美術館の取り組みと、知られざるa平焼〈みんぺいやき〉の魅力について報告します。

窯元点在の丹波焼の里に立地

美術館は、JR福知山線の相野駅で下車します。丹波・篠山と聞けば遠いイメージでしたが、大阪から快速で約50分で結ばれていました。駅前より「清水」または「兵庫陶芸美術館」行き神姫バスに乗って15分ほどの所ですが、車窓から窯元の看板が目に入ります。最近の美術館は交通便の良い街中に立地するのがほとんどですが、周囲はのどかな山里で、四季折々の風景が楽しめそうです。


エントランス棟の前で案内役の坂本牧子学芸員

古風な白壁の美しい展示棟(兵庫陶芸美術館提供)

山懐に抱かれるように斜面に建てられた館は、約5万平方メートルもの広さがあります。銀鼠色の瓦と、白い漆喰壁を基調にしたエントランス棟に続く2階建ての展示棟や管理棟が回廊で結ばれています。さらに障子をイメージしたという曇りガラスの研修棟や、茶室などが自然の風景に溶け込むように配置されています。

兵庫県には、瀬戸・常滑・信楽・備前・越前とともに日本六古窯の一つに数えられる丹波焼をはじめ、摂津の三田焼、播磨の東山焼、但馬の出石焼などの産地があります。こうした兵庫の陶芸文化の振興と創造をめざし、美術館の開館が待望されていたのでした。所蔵品は、丹波焼、三田焼、a平焼など、県内産の優れた陶磁器約900件からなる田中寛コレクションを中心に、近現代の国内外の陶芸作品を合わせ1,141件(2007年現在)所蔵しています。

館長の乾由明さんは旧知です。朝日新聞社企画部時代に手がけた「古備前を超えて 森陶岳展」を1999年秋から2000年春に開催した際には、監修を引き受けていただきました。何度か備前にも同行し、多くの指導を得ました。前任の金沢美術工芸大学学長の時にも、金沢でお会いし、アートの視点について示唆を受けました。

その初代館長の乾さんは館のホームページで次のような抱負を語っています。

「丹波の地にありますが、丹波焼など県内産だけでなく国内外から作品を収集・保存・展示します。しかし、地域との連携はとても大事なことです。地元の陶芸家と一緒に新しい形のイベントなどの催しを企画したいと思っています。少し陶芸のキャリアがある人を対象に地元の陶芸家に積極的に指導してもらう。ここから優れた陶芸家を育てていくことも大切な使命だと思います。また一般の観光客の方々のためには、窯元の工房を開放していただき、丹波焼の里全体をミュージアムにできたらいいなと思います」

多種多様なa平焼の魅力を展示


「色絵鶏形置物」などを陳列した展示室

さてa平焼についてですが、名前こそ耳にしていたものの、ほとんど未知の陶芸でした。図録などによると、江戸後期の文政年間(1818−30)に、淡路島の南端で賀集a平〈かしゅうみんぺい〉が創始したやきものとのことです。京都の陶工、尾形周平を招き、京焼の色絵陶器技術とそのデザインを取り入れたのでした。天保年間後期(1838−44)頃には阿波徳島藩の御用窯になったとされています。

4室に分けられた展示室を通観して、その多様な作品に驚きました。京焼の色絵陶器写しから始まり、年代や産地の異なる中国陶磁写しなど多彩です。大胆な筆遣いの染付、色絵、青磁や、景徳鎮窯の模倣まで実に精巧な技術で作陶されています。


「色絵乙御前形香合」

「色絵乙御前形香合」や「色絵秋草文茶碗」はいずれも田中寛コレクションで、華やかで繊細な色絵が施されています。一方、「色絵龍鳳文水指」は静嘉堂文庫美術館所蔵ですが、龍、鳳凰、雲を紫の色絵で描き、輪郭を金彩で優雅に仕上げています。

中国陶磁写しも数多く展示されています。「色絵鳳凰氷梅文太鼓胴唐子足盃洗」は太鼓をかたどった胴部を3人の唐子が支えていますが、中国の文様や形を巧みに引用しています。「三彩鳳凰草花文大皿」と「三彩鉢」は、景徳鎮窯を倣ったものです。この3点とも田中寛コレクションです。

さらには漆器や金属器を写したものまで作られています。とりわけ「鉄釉霰文土瓶」はどう見ても鉄瓶にしか見えません。このほか蓋碗や燭台、茶入など漆器そっくりです。形や色だけでなく、質感にいたるまで似せて作るのは優れた技術ならではと感心しました。


「色絵秋草文茶碗」

「色絵鳳凰氷梅文太鼓胴唐子足盃洗」

a平焼はa平の没後、甥の三平や淡陶社に製陶技術を引き継がれます。江戸後期から明治期にかけて国内で普及し、海外にも輸出し販路を広げたようです。それを裏付けるように青森から沖縄まで広範囲な地域の遺跡から発掘されています。近年には、明治から大正時代にかけての窯跡付近の発掘調査が行われ、a平焼の新たな側面が明らかになりつつあります。

展覧会では、田中寛コレクションのほか各地に所蔵されるa平焼と、窯跡や大坂、江戸城下などの遺跡からの出土資料を合わせて約140件を展示しています。a平焼の展覧会としては1989年に洲本市の淡路文化史料館で開かれて以来ほぼ20年ぶりだといいます。

この展覧会を企画した梶山博史学芸員は図録で「日本陶磁史研究においても、a平焼は江戸時代後期の一地方窯として位置付けられるに過ぎないものであった。しかしその高い技術力や製品の幅広いバリエーションは、同時期の国内諸窯のなかでも群を抜いている。a平焼がこのまま忘れ去られてしまわぬように何らかの形で記録に残そうというのが本展覧会およびこの図録の目的の一つである」と記しています。

梶山学芸員は、大阪大学で陶芸を研究しており、島根県立美術館から兵庫の開館時に転籍したそうです。当初からa平焼に注目していた上、同僚の仁尾一人学芸員が兵庫県教育委員会埋蔵文化財調査事務所(現兵庫県立考古博物館)でa平焼の窯跡の発掘を担当していたことから企画展にこぎつけられたとのことです。


「三彩鳳凰草花文大皿」

「三彩鉢」

「鉄釉霰文土瓶」

9月2日までの期間中、7月28日に梶山学芸員が「知られざるa平焼の魅力に迫る」、8月25日に仁尾学芸員が「a平焼窯跡の発掘調査」と題して、いずれも午後2時から記念講演をします。

陶芸の新たな可能性を追求

会場では企画展とは別に、9月24日まで「丹波の赤」のテーマ展も開いています。丹波では、江戸時代初めから、粗い陶土の表面や内面に土部を塗っています。吸水性を抑え、表面を滑らかにするためですが、鉄分を含んでいるため窯での焼成中、赤く発色することから赤土部と呼ばれています。こちらは所蔵作品だけで構成していますが、なかなか味わいがありました。

開館後の企画展としては、「やきもののふるさと丹波」「田中寛コレクションと現代の陶芸」「兵庫の陶芸」といった地域性のものから「バーナード・リーチ展」や「松井康成の全貌」「人のかたち―もうひとつの陶芸美」など国内・海外の作家らも取り上げています。

さらに「陶芸の現在、そして未来へ Ceramic NOW+」では、陶芸の新たな可能性を追求し続ける5人の作家に出品を依頼し新作を中心に展示しています。また新たな試みとして、「TAMBA STYLE 伝統と実験」では、次回のサイトで紹介予定の常滑の国際的な作家、鯉江良二さんを招いて丹波の土と窯で製作した作品を発表しています。

私が館を訪ねた日、乾館長は休まれていましたが、大阪の画廊で会った坂本牧子学芸員に案内役を引き受けていただきました。エントランス棟に創作活動のための工房がありました。工房には土練機や手回しロクロ・電気ロクロ、電気釜・ガス窯も備えています。陶芸の里の利点を生かし、丹波の土を使い、窯元から講師が来て教えに来てくれるそうです。


a平焼窯跡から出土した遺物

ロクロなどが整備された工房

館では展示だけでなく、次世代の陶芸文化を担う人材の養成、学校教育との連携、陶芸ワークショップ、陶芸文化講座などにも力点を置いています。このため専任の陶芸指導員が3人いて、県内の小・中学校に出向いて指導したり、近隣の学校からは工房での陶芸教室を受け入れています。

坂本学芸員は、この館で初めて陶芸を担当したといいます。「ジャンルにこだわることなく幅広く現在の芸術を見つめていきたい」と言います。やきものを軸に据えながら、絵画や彫刻などの分野と対比させる視点も必要かもしれないと思いました。

今後の企画展としては「青磁を極める―岡部嶺男展」(12月15日−2008年3月2日)「縄文の造形」(仮称、3月15日−6月1日)を予定しています。

美術館の近くには、60を数える窯元と丹波伝統工芸公園「陶(すえ)の郷」があります。1日かけ、緑あふれる自然環境の中で、ゆったり陶芸の魅力に浸るのもいかがでしょうか。

次回は、「鯉江良二のアトリエを訪ねて」です。


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しらとり・まさお
ジャーナリスト、朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に、『アートへの招待状』(梧桐書院)『「大人の旅」心得帖』『「文化」は生きる「力」だ』(いずれも三五館)『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)などがある。

アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
 
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
第一章 展覧会とその舞台裏から
第二章 美術館に行ってみよう
第三章 アーティストの心意気と支える人たち
第四章 世界の美術館と世界遺産を訪ねて
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
         
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
第一章 いま問われる、真の豊かさ
第二章 「文化」のある風景と、未来への試み
第三章 夢実現のための「第二の人生」へ
第四章 「文化」は人が育み、人に宿る
夢しごと 三蔵法師を伝えて
発売日:2000年12月21日
定価:本体1,800円+税
発行:東方出版
         


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